「花より根が、

 大事っていうけど、

 一体、根って何なの?!」

 

 

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  (超訳伝習録 第22話「花より根が大事」)

 

 

ある弟子が陽明先生に尋ねた、

 

「先生、花より根が大事だ、

 それはうちの婆ちゃんも、

 そう言うてたし、

 他の人にも、

 よく言われましたわ。

 

 でも、一体、

 根って何なんですか?」

 

 陽明先生は、

 よくぞ聞いてくれた、

 そう言わんばかりに、

 

 笑みを浮かべ、

 弟子を軽く指差してから、

 言われた、

 

 

 「大きな木には、地の下に、

  大きな根があると、

  

  そう言うたやろ、

  

  だから、

  大きな木、大きな花を

  咲かせようと思うなら、

  根を育てなあかんのや。

 

  だから、水は、

  枝や葉にあげるのではなく、

  根にやらなアカンな。

 

  植物にとっての根は、

  人の良知にあたると説明した。

 

  そして、良知とは何か?

 

  良知とは、困っている人を

  助けたいと思う心や、

  弱きものを救いたい、

 

  そんな想いやな。

  

  例えば、

  二宮尊徳って人がおる、

  

  彼は、当時、

  日本を襲った飢饉から、

  

  年寄りや子供を、

  飢えから救った人や。

  

  彼が携わった村では、

  餓死者がいなかったそうや。

  

  当時の状況を考えると、

  これは奇跡的な、

  大きな事績やな。

  

  この事績が、

  植物でいうたら花やな。

 

  彼は、若い頃、

  初めて授かった子供を、 

  病気で亡くしてるんや。

 

  しかも、すぐ、その後、

  奥さんにも逃げられてる。

 

  彼は、子供を失う悲しさ、

  家族の居ない辛さを、

  知っていた、

 

  嫌と言うくらい、

  身に染みてたんや。

 

  彼は、子供を救いたい、 

  子供を亡くし、

  悲しむ人を無くしたい、

  

  そんな思いが、

  とても強かったんや。

 

  これが彼にとっての根やな。

 

  明治の人で、

  渋沢栄一と言う人がおる、

 

  この人は、

  いろんな実績を残したが、

 

  中でも、

  女の人が笑顔で働く職場を、

  たくさん作った人や。

  

  その代表例が富岡製糸場や。

 

  また、彼は、

  女性が工場労働で、

  身体を壊すのを防ごうと、

  工場法という、

  日本で最初の労働法を、

  作ったりもした。

 

  これが彼にとっての花や。

 

  渋沢には、

  実は、7人の姉妹が、

  おったんや。

  

  しかし、彼女たちは、

  みな、渋沢より先に、

  亡くなっている。

 

  彼には、自分の目の前で、

  若い女性が、

  亡くなっていくことが、

  耐えられなかったんや。

  

  これが根やな。

 

  孟子がこんなことを、

  言うてる、

 

「天が、人に大きな物事を、

 させようとするとき、

 天は、人にまず、

 大きな困難を与える」

 

陽明先生は、

間を少し入れてから、

 

「自分に降りかかる、

 その悲しみに、

 目を背けたらあかんのや。

 

 その悲しみや苦しみに、

 ちゃんと向き合ってみる。

 

 その悲しみに向き合ったとき、

 そこに意味が生まれる。

 天が与えた意味に、気がつく。

  

 そしたら、誰かが、

 自分と同じように、

 苦しんでたり、

 悲しんでたりしたら、

   

 救って上げたい、

 そう思うようになる?

 これが根を大きくする、

 そういうことや」

 

 

それを聞いた弟子が、

こう言った、

 

「先生、

 それはよくわかりました、

 じゃあ、

 大きな不幸を経験せねば、

 大きな実績は残せない、

 そういうことですか?」

 

 

陽明先生は、苦笑いを浮かべ、

すこしだけ困った顔をして、

 

「そういうと思ってたわ、

 結論から言えば、それは違う。

  

 根を育てる方法は、

 それだけやない。

 いくつもある。

 

 良知、

 それは困っている人を、

 助けたい、

 優しくしてあげたい、

 喜んでもらいたい、

 

 そういう気持ちや。それは、

 欲求と表現しても良いな。

 

 今からずっと未来、20世紀の

 心理学者はその欲求を、

  

  他者幸福の欲求とか、

  コミュニティ発展欲求

   (Aマズロー)、

  意味実現欲求

  (Vフランクル)

  そんな風に表現した。

 

  では、欲求はどうやったら、

  大きくなるか。

 

  21世紀の学者で、

  一橋大学教授で 

  田中一弘って人がおる。

 

  彼は良知(良心)には、

  3つあると言ってる、

  

  ①与える良心

  ②応える良心

  ③求める良心  

 

 ここで説明したいのは、

 ②の応える良心や。

 

 これは、

 人に優しくしてもらったら、

 

 それをその人に返したいとか、

 他の人にもしてあげたい、

 そういう欲求やな。

 

 これはどうやったら育つか?

 

 これは、

 自分の親にしてもらったことを、

 よく思い出してみることや。

 

 小さいときから、

 してもらったこと、 

 毎日、毎日、

 ご飯を作ってくれたこと、

 

 自分のことを我慢して、

 面倒をみてくれたこと、

 熱のときに、

 ずっと看病してくれたこと、

 

 泣いてるときに、

 手を握ってくれたこと、

 抱き上げてくれたこと。

 

 親がいない人でも、

 自分が、

 ここまで大きくなったのには、

 誰かがいたはずや。

 

 それを焦らず、

 ゆっくり時間をかけて、

 思い出していくんや。

 

 ゆっくり、じっくり。

 

 大丈夫、

 ちゃんと思い出せるから。

 

 そうすると、

 涙が出てくる人もおる、

 

 思い出せたら、

 誰かにそれを返したくなる、

 

 他の人にも、

 自分がしてもらったことを  

 して上げたくなる。

 

 昭和の陽明学者で、

 安岡正篤って人がいるけど、

 人の良知は親から、

 やってくると言うたらしい。

 それは上手いこと言うたな。

 

 それから、

 もう一つ大事なことは、

 人に何かをしてあげたくなって

 それを、実際にしてあげて、

 

 相手が喜んでくれたら、

 こちらも、すごく嬉しくなる。

 

 そして、もっと、もっと、

 何かをしてあげたくなる。

 

 これは、

 欲求が大きくなっているや。

 

 欲求というのは、

 満たされたら、

 さらに大きな刺激、

 快感を求めるようになる。

 

 それも大自然の摂理や。

 

 人に何かしてあげたい欲求が

 大きくなっていくこと。

 

 それは根が、

 大きくなることやな」

 

 

大きな木の下には、

それより大きな根があることを、

想像してみることやな。

 

 

 参照)第3話「立志」