王陽明の語録「伝習録」は、
師弟のこんなやり取りから始まる。
陽明先生は、
自分の言葉を一言一句聞き逃すまいと、
ノートをとる愛弟子、徐愛に向かって、
こう言われた、
「ちょっと自分、何してんの、それ?」
「先生の話をメモしてるんです」
「オレ、自分に言うてなかったっけ?
メモは取るなって」
ポカンとする徐愛に向かい、
陽明先生は続けられた、
「ええか?
医者が薬を処方するとき、
まずは病名に見立てをたて、次に、
患者のそのときの体力、
熱があるかないか?
患者の体質など、
その時々の状況に応じ、
薬の処方を決めていくやろ。
それをあろうことか、
この病気にはコレやと決めつけて、
ろくに患者も診察せずに、
薬を処方してしまっては、
効果がないどころか、
場合によっては、
患者を殺してしまうこともあるで。
ええか、オレが今、話している言葉も、
目の前にいる生徒の状況をみて、
その心の偏りやこだわりを、
指摘しているんやから、
他の人には、そのままでは、
通用しないんや。
それを、
オレの言葉を金科玉条のように捉えて、
他で話そうものなら、
えらい大きな間違いを起こすこともある。」
このように聞かされた徐愛、
その話に納得はする。
そして、陽明に言い返すのだが、
徐愛が何と返したかは、またの機会に。